珍しい判断がきました。
高校に通うための奨学金が収入と見なされ、福島市の30代女性と高校2年の長女の母子家庭への生活保護費が市によって減額された処分について、国は奨学金を収入と認めず、生活保護費の減額処分を取り消す裁決をした。女性らの代理人を務める弁護団が17日、同市で記者会見し明らかにした。
西日本新聞 「奨学金は収入でない」国が生活保護減額取り消し 2015年8月17日
わかる人はわかりますが、そうでないと何のことだかわからないので、少し解説します。
生活保護における収入
まず、福島市が奨学金を収入と見なしたとのこと。
収入と見なすとは、いったいどういうことでしょうか。
生活保護の場合、基本的にその世帯構成員の手元に入ってくるすべてのお金は「収入」としてカウントします。
そして、その「収入」と世帯構成員の人数や年齢等から計算される「最低生活費」とを比較して、
収入<最低生活費
ならば、最低生活費-収入の金額を「保護費」として、その世帯に支給します。
たとえば、人からお金を借りたとします。
あとで返すとしても、「収入」となります。
したがって、借りたお金の分だけ「収入」が増加するので、結果として「保護費」が減額されます。
2人の最低生活費が、14万円だとしましょう。
長女が、奨学金を月2万円借りたとします。
奨学金を収入認定してしまったので、12万円が支給される計算になるわけです。
たしかに手元には保護費12万円と奨学金2万円があり、あわせて最低生活費の14万円があることになっています。
とはいっても、収入として見なさないものもあります。
たとえば、お葬式の時の香典。
まさか、渡す方も生活費になると思って渡していないはずです。
収入として取り扱わないものもあるということを覚えておいてください。
クーラー購入費の借り入れは「収入」にカウントしなくなった
その話で言うと、ここのところ猛暑ですので、クーラーをつけて、熱中症にならないようにしなければというケースが考えられます。高齢者ならばなおのことです。
どの家庭にもあるようになりましたが、でも、クーラーはそこそこ値段がはります。生活保護費ではそうそう買えません。
そこで、生活福祉資金を借りて、クーラーを購入するという方法が通るようになりました。
これは、クーラー購入のための借り入れは、収入と見なさないという運用ルールができて、認められるようになったものです。
ここで大切なのは目的。
借り入れは、何のためなのかということが重要になってきます。
つまり、借り入れの目的によっては、収入と見なさないケースもあるということです。
奨学金を収入とした福島市は猛省してください
学費が高騰し、奨学金を借りちゃったら、将来返せるような職業に就けるかどうか不安。
そのためにブラックバイトが蔓延し、ブラック企業に入社する準備期間となってしまっています。
そんな高校生や大学生にとって、奨学金は少しずつですが制度改善が進んできています。
たとえば、所得連動で返済していくタイプの登場です。
しかし、根本的には学費高騰、給付制奨学金導入が避けられないところではないかと思いますが。
そんな時世に、福島市は、奨学金を生活保護の収入として認定しました。
借り入れした奨学金の分、まるまる保護費を減額するわけです。
なんというおかしな認定でしょう。
そして、国がそれをひっくり返しました。
奨学金を収入として見なさず、保護費をその分、減額しないと判断したわけです。
これが珍しいというのは、基本的に国は自治体の判断に従う傾向があります。
生活保護のような制度は、人間の生き方にかかわるので現場判断が最も大切という考え方からでしょう。
しかし、今回の福島市の判断は、おかしなものでした。
常識的に考えたら、判断をひっくり返して当然といえば当然です。
まず、福島市は猛省し、今回の判断がなぜ行われたのか調査をして、どの時点でそれを止めることができたはずなのか、どうして今回止められなかったのか、洗い出すべきです。
そうしなければ、また同じような判断が出てしまうかもしれません。